右に示されている図から数字のみを抜き出せば次のようになる。
このように高齢者1人あたりの労働人口は驚くべき割合で減ってゆく。労働人口が減るということは、高齢者を支えるためにはいまよりもいっそう負担増をしなくてはならないということである。
したがって次の見解は当然である。
日本の場合、低福祉・低負担や高福祉・高負担という選択肢はなく、中福祉・高負担しかありえないことです。それに異論があるなら、 公的保険を小さくして自己負担を増やしていくか、産業化するといった全く違う発想が必要になるでしょう。(財政と社会保障 ~私たちはどのような国家像を目指すのか~ 大和総研理事長武藤敏郎、 2017年1月18日)
世界一の少子高齢化社会では中福祉高負担しかありえない。いまより負担を増やして、なんとか現在の福祉水準を維持できないだろうか。こういったあり方しかない。
この立場が(既存システム内では)きわめて正統的なものであるのは、誰でもわかるはずのことである。
上の表は年度のきりが悪いので10年ごとの数字も挙げておこう。
この数字を示したのは、2050年どころか、2040年においてもはや高齢者1人当たりを支える労働人口はわずか1.4人になってしまうことを示すためである。
2030年でさえ1.7人。この意味は2000年の3.6人の半分以下の労働人口で高齢者1人を支えなければならないということである。
上の表に75歳以上の高齢者数も示したが、仮に年金支給年齢を70歳からにしても困難な状況はそれほど変わらない。それはすこし数字を触ってみれば瞭然とする。
さらに75歳以上の高齢者数が増えるということは、数が増える以上に負担が増えるということである。
まずこの厳然たる未来を人は認めなくてはならない。夢を見ていてはダメなのである。
国民の中では、「中福祉・中負担」でまかなえないかという意見があるが、私どもの分析では、中福祉を維持するためには高負担になり、中負担で収めるには、低福祉になってしまう。40%に及ぶ高齢化率では、中福祉・中負担は幻想であると考えている。
仮に、40%の超高齢化社会で、借金をせずに現在の水準を保とうとすると、国民負担率は70%にならざるを得ない。これは、福祉国家といわれるスウェーデンを上回る数字であり、資本主義国家ではありえない数字である。そのため、社会保障のサービスを削減・合理化することが不可避である。(武藤敏郎「日本の社会保障制度を考える」2013年)
ここでは「社会保障のサービスを削減・合理化」には触れないでおこう。国民負担率だけに絞る。
主要各国の国民負担率は次の通り。
アメリカのように 公的保険を小さくして「個人で勝手に将来に備えてくれ」という国以外は、その国民負担率は日本に比べて格段に高い。各国は日本ほどの高齢化社会でもないにもかかわらずである。
ようするに日本が既存の制度内でやっていくつもりなら、社会保障負担率(社会保険料等)、資産課税率、消費税率、法人所得課税率、個人所得課税率のどれかを必ずあげなくてはならない。これもすこし考えればだれにでもわかることのはずである。
上のデータはすこし古いが内訳が記されているので掲げたのだが、財務省から示されている直近の国別国民負担率は次の通り。
2018年の国民負担率は増えていない。社会保障給付額は年毎に着実に増加しているのに。これでは借金が積み重なるばかりである。
簡潔に言おう。現在の日本の財政状況においては、この国民負担率を思考することが何よりも肝腎である。消費税を下げたいなら下げたらよろしい。だがそのとき何をかわりに上げるのか。そもそも消費税増だけに頼ったら、20パーセントにしてもまったく足りないのである。
その状況で消費税10パーセントがイヤだというなら、なにかほかの税を大きくあげて、税総額の増大を必ず実施しなけれならない。もし資産のない高齢者を切り捨てたくないなら、とただし書きをしておいてもよい。
法人税をあげれば経済成長にいっそう悪影響がある。個人税や社会保険料をあげれば、労働人口にいっそう負担がかかって、現役世代いじめとなる。
日本の財政は、世界一の超高齢社会の運営をしていくにあたり、極めて低い国民負担率と潤沢な引退層向け社会保障給付という点で最大の問題を抱えてしまっている。つまり、困窮した現役層への移転支出や将来への投資ではなく、引退層への資金移転のために財政赤字が大きいという特徴を有している(「DIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」」大和総研2013、武藤敏郎監修)
さてわたくしの問いはこうである。消費税に反対する方々は10年後、ーーここでは20年後などとは言わないで、より近未来の話をするーー、この10年後に「あなたは国民負担率をどうしたいのですか?」というものである。
巷間の左翼ポピュリストたち、それはリベラルインテリも含むが、彼らにはこの問いがまったくないようにしか思えないのである。
※国民負担率のより詳しいデータやその算出の仕方については、「負担率に関する資料」を参照。