2024年1月24日水曜日

第一次抑圧と幼児期の外傷神経症


 以下、フロイトにおける抑圧概念の基本を見る。

①抑圧されたトラウマ

我々は、あらゆる神経症の根に横たわっている抑圧を、トラウマに対する反応、基本的な外傷神経症と呼ぶことができる[man kann doch die Verdrängung, die jeder Neurose zu Grunde liegt, mit Fug und Recht als Reaktion auf ein Trauma, als elementare traumatische Neurose bezeichnen. ](フロイト「『戦争神経症の精神分析のために』への序言」 Einleitung zu Zur Psychoanalyse der Kriegsneurosen, 1919年)


つまり抑圧されたものとは、《抑圧されたトラウマ[verdrängte Trauma]》(フロイト『精神分析技法に対するさらなる忠告』1913年)である。



②抑圧された固着


上に外傷神経症とあったが、外傷神経症は固着である。

外傷神経症は、外傷的出来事の瞬間への固着がその根に横たわっていることを明瞭に示している。これらの患者はその夢のなかで、規則的に外傷的状況を反復する[Die traumatischen Neurosen geben deutliche Anzeichen dafür, daß ihnen eine Fixierung an den Moment des traumatischen Unfalles zugrunde liegt. In ihren Träumen wiederholen diese Kranken regelmäßig die traumatische Situation](フロイト『精神分析入門』第18講「トラウマへの固着、無意識への固着 Die Fixierung an das Trauma, das Unbewußte」1917年)


したがって抑圧されたトラウマとは《抑圧された固着[verdrängten Fixierungen]》 (フロイト『精神分析入門』第23講、1917年)と等価である。


そもそもフロイトにおいて第一次抑圧(原抑圧)は欲動の固着である。

抑圧の第一段階は、あらゆる抑圧の先駆けでありその条件をなしている固着である[das »Verdrängung«…Die erste Phase besteht in der Fixierung, dem Vorläufer und der Bedingung einer jeden »Verdrängung«. ]〔・・・〕

この欲動の固着は、以後に継起する病いの基盤を構成する[Fixierungen der Triebe die Disposition für die spätere Erkrankung liege](フロイト『自伝的に記述されたパラノイアの一症例に関する精神分析的考察』(症例シュレーバー  )1911年)

われわれには原抑圧[Urverdrängung]、つまり、抑圧の第一段階を仮定する根拠がある[Wir haben also Grund, eine Urverdrängung anzunehmen, eine erste Phase der Verdrängung](フロイト『抑圧』1915年)



③抑圧された欲動


フロイトはこう言っている。

抑圧されたものは自我にとって異郷、内的異郷である[das Verdrängte ist aber für das Ich Ausland, inneres Ausland](フロイト『新精神分析入門』第31講、1933年)


この内的異郷は「エスの欲動蠢動=異者としての身体=トラウマ」である。

自我はエスの組織化された部分である。ふつう抑圧された欲動蠢動は分離されたままである。 das Ich ist eben der organisierte Anteil des Es ...in der Regel bleibt die zu verdrängende Triebregung isoliert. 〔・・・〕


エスの欲動蠢動は、自我組織の外部に存在し、自我の治外法権である。われわれはこのエスの欲動蠢動を、たえず刺激や反応現象を起こしている異者としての身体 [Fremdkörper]の症状と呼んでいる。〔・・・〕この異者身体は内界にある自我の異郷部分である[Triebregung des Es …ist Existenz außerhalb der Ichorganisation …der Exterritorialität, …betrachtet das Symptom als einen Fremdkörper, der unaufhörlich Reiz- und Reaktionserscheinungen …das ichfremde Stück der Innenwelt ](フロイト『制止、症状、不安』第3章、1926年、摘要)

トラウマないしはトラウマの記憶は、異者としての身体 [Fremdkörper] のように作用する[das psychische Trauma, respektive die Erinnerung an dasselbe, nach Art eines Fremdkörpers wirkt](フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年)


つまりフロイトにとって自我の異郷にあるエスの欲動はトラウマである。したがって①の抑圧されたトラウマは《抑圧された欲動[verdrängte Trieb]》(フロイト『快原理の彼岸』第5章、1920年)と等価である、あるいは《抑圧されたエス[verdrängte Es]》(フロイト『制止、症状、不安』第10章、1926年)と。


そして欲動のトラウマの固着は幼児期に起こる。

幼児期に固着された欲動[der Kindheit fixierten Trieben]( フロイト『性理論三篇』1905年)

トラウマ的固着[traumatischen Fixierung]〔・・・〕ここで外傷神経症は我々に究極の事例を提供してくれる。だが我々はまた認めなければならない、幼児期の出来事もまたトラウマ的特徴をもっていることを[Die traumatische Neurose zeigt uns da einen extremen Fall, aber man muß auch den Kindheitserlebnissen den traumatischen Charakter zugestehen](フロイト『続精神分析入門』第29講, 1933 年)



フロイトにおいて幼児期のトラウマの定義は自己身体の出来事であり、トラウマへの固着という不変の個性刻印である。


われわれの研究が示すのは、神経症の現象 (症状)は、或る出来事と印象(刻印)の結果だという事である。したがってそれを病因的トラウマと見なす。Es hat sich für unsere Forschung herausgestellt, daß das, was wir die Phänomene (Symptome) einer Neurose heißen, die Folgen von gewissen Erlebnissen und Eindrücken sind, die wir eben darum als ätiologische Traumen anerkennen.〔・・・〕

この初期幼児期のトラウマはすべて五歳までに起こる。

ätiologische Traumen …Alle diese Traumen gehören der frühen Kindheit bis etwa zu 5 Jahren an〔・・・〕


トラウマは自己身体の出来事もしくは感覚知覚である[Die Traumen sind entweder Erlebnisse am eigenen Körper oder Sinneswahrnehmungen]〔・・・〕

このトラウマの作用はトラウマへの固着と反復強迫として要約できる[Man faßt diese Bemühungen zusammen als Fixierung an das Trauma und als Wiederholungszwang. ]。

これらは、標準的自我と呼ばれるもののなかに取り込まれ、絶え間ない同一の傾向をもっており、不変の個性刻印 と呼びうる[Sie können in das sog. normale Ich aufgenommen werden und als ständige Tendenzen desselben ihm unwandelbare Charakterzüge verleihen]。 (フロイト『モーセと一神教』「3.1.3 Die Analogie」1939年)


以上、「抑圧されたトラウマ=抑圧された欲動=抑圧された固着」であり、これは幼児期の外傷神経症を意味する。


これらは基本的な第一次抑圧の定義であり、初期から晩年まで一貫している。ここでは1896年と1937年の文を並べておこう。


抑圧された幼児期の出来事[verdrängten Kindererlebnisse](フロイト『防衛 - 神経精神症再論』Weitere Bemerkungen über die Abwehr-Neuropsychosen, 1896年)

抑圧はすべて早期幼児期に起こる。それは未成熟な弱い自我の原防衛手段である[Alle Verdrängungen geschehen in früher Kindheit; es sind primitive Abwehrmaßregeln des unreifen, schwachen Ichs.](フロイト『終りある分析と終りなき分析』 第3章、1937 年)



………………


なおフロイトにはこの第一次抑圧つまり原抑圧以外に後期抑圧がある[参照


原抑圧

Urverdrängung

抑圧された欲動[verdrängte Trieb](フロイト『快原理の彼岸』第5章、1920年)

抑圧された固着[verdrängten Fixierungen] (フロイト『精神分析入門』第23講、1917年)

抑圧されたトラウマ[verdrängte Trauma](フロイト『精神分析技法に対するさらなる忠告』1913年)

後期抑圧

Nachverdrängung

抑圧された願望(欲望)[verdrängte Wünsche](フロイト『夢解釈』第5章、1900年)

抑圧された表象[verdrängten Vorstellungen](フロイト『夢解釈』第7章、1900年)

抑圧された思想[verdrängten Gedanken ] (フロイト『夢解釈』第7章、1900年)



後期抑圧は言語(願望・表象・思想)に関わる。フロイトは《印象や表象のみを問題にしている限り、われわれは事態の表面にとどまる[Wir bleiben an der Oberfläche, so lange wir nur von Erinnerungen und Vorstellungen handeln.]》『W.イェンゼンの《グラディーヴァ》における妄想と夢』1907年)と記しているように、この後期抑圧は二次的なものであり抑圧の本質ではない。


他方、本来の第一次抑圧つまり原抑圧は身体に関わる。

というのは、フロイトの欲動の定義は身体的要求だから。

エスの要求によって引き起こされる緊張の背後にあると想定された力を欲動と呼ぶ。欲動は心的生に課される身体的要求である。Die Kräfte, die wir hinter den Bedürfnisspannungen des Es annehmen, heissen wir Triebe.Sie repräsentieren die körperlichen Anforderungen an das Seelenleben.(フロイト『精神分析概説』第2章1939年)


そしてこの欲動の身体は不快である。

不快な性質をもった身体的感覚[daß Körpersensationen unlustiger Art](フロイト『ナルシシズム入門』1914年)

不快なものとしての内的欲動刺激[innere Triebreize als unlustvoll](フロイト『欲動とその運命』1915年)

欲動過程による不快[die Unlust, die durch den Triebvorgang](フロイト『制止、症状、不安』第9章、1926年)


したがってフロイトが次のように言うとき、この抑圧された不快は抑圧された欲動を意味する。

抑圧の動因と目的は不快の回避以外の何ものでもない[daß Motiv und Absicht der Verdrängung nichts anderes als die Vermeidung von Unlust war. ](フロイト『抑圧』1915年)


さらに不快の別名は不安かつトラウマである。

不安は特殊な不快状態である[Die Angst ist also ein besonderer Unlustzustand](フロイト『制止、症状、不安』第8章、1926年)

不安はトラウマにおける寄る辺なさへの原初の反応である[Die Angst ist die ursprüngliche Reaktion auf die Hilflosigkeit im Trauma](フロイト『制止、症状、不安』第11章B、1926年)



したがって抑圧された不快は抑圧されたトラウマ(欲動)かつ抑圧された不安である。


不安が抑圧を引き起こす[Hier macht die Angst die Verdrängung](フロイト『制止、症状、不安』第4章、1926年)