ある意図があって、ニーチェの末人(最後の人間[letzten Menschen])をめぐる記述をいくつかぬき出す。
◼️ニーチェ『ツァラトゥストラ』「序」第5節 |
私は君達に言う、踊る星を生むことが出来るためには、人は自分のうちに混沌を持っていなければならない。私は君達に言う、君達は自分のうちにまだ混沌を持っている。 災いなるかな! 人間がいかなる星も生まなくなる時代が来る。 災いなるかな! 自分自身を軽蔑できない、最も軽蔑すべき人間の時代が来る[ Es kommt die Weit des verächtlichsten Menschen, der sich selber nicht mehr verachten kann.] |
見よ! 私は君達に「末人」を示そう[Seht! Ich zeige euch den letzten Menschen.] 『愛って何? 創造って何? 憧憬って何? 星って何?』―こう末人は問い、まばたきをする。 そのとき大地は小さくなっている。その上を末人が飛び跳ねる。末人は全てのものを小さくする。この種族はノミのように根絶できない。末人は一番長く生きる。 |
『われわれは幸福を発明した』―こう末人たちは言い、まばたきをする。 彼らは生き難い土地を去った、温かさが必要だから。彼らはまだ隣人を愛しており、隣人に身体を擦りつける、温かさが必要だから。 病気になることと不信をもつことは、かれらにとっては罪である。かれらは歩き方にも気をくばる。石につまずく者、もしくは人につまずく者は愚者とされる。 ときおり少しの毒、それは快い夢を見させる。そして最後は多量の毒、快い死のために。 |
かれらもやはり働く。というのは働くことは慰みになるからだ。しかしその慰みが身をそこねることがないように気をつける。 かれらはもう貧しくなることも、富むこともない。両者ともに煩わしすぎるのだ。もうだれも統治しようとしない。服従しようとしない。両者ともに煩わしすぎるのだ。 |
飼い主のいない、ひとつの畜群! [Kein Hirt und Eine Heerde! ] 誰もが同じものを欲し、誰もが同じだ。考え方が違う者は、自ら望んで気ちがい病院に向かう。 「むかしは、世界をあげて狂っていた」ーーそう洗練された人士は言って、まばたきする。 かれらはみな怜悧であり、世界に起こったいっさいのことについて知識をもっている。だからかれらはたえず嘲笑の種を見つける[so hat man kein Ende zu spotten]。かれらも争いはする。しかしすぐに和解するーーそうしなければ胃をそこなうからだ。 |
かれらはいささかの昼の快楽、いささかの夜の快楽をもちあわせている。しかし健康をなによりも重んずる。 「われわれは幸福を発明した」ーーそう末人たちは言う。そしてまばたきする。ーー |
◼️ツァラトゥストラ 第三部「新旧の表」26-27節 |
よし悪人がどんな害をおよぼそうと、善人のおよぼす害は、もっとも害のある害である。Und was für Schaden auch die Bösen thun mögen: der Schaden der Guten ist der schädlichste Schaden! 〔・・・〕 善い者、……かれらの精神は、かれらの自身の「やましくない良心」という牢獄のなかに囚われていた。測りがたく怜悧なのが、善い者たちの愚鈍さだ。〔・・・〕 善い者たちーーそれはつねに終末の発端であったのだ。 おお、わたしの兄弟たちよ、君たちは、わたしがいま言ったことを理解したか。またわたしがかって「末人」について言ったことを理解したかーー Oh meine Brüder, verstandet ihr auch diess Wort? Und was ich einst sagte vom "letzten Menschen"? - - 人間の未来全体にわたっての最大の危険は、どういう者たちのもとにあるか。それは善い者、正しい者たちのもとにあるのではないか。 打ち砕け、善い者、正しい者たちを打ち砕け。 おお、わたしの兄弟たちよ、君たちはこのことばの意味をも理解したか。 |
◼️『この人を見よ』「なぜ私は一個の運命であるのか」第4節 |
人類を去勢して、あわれむべき宦官の状態に引き下げること……この意味で、ツァラトゥストラは、善人たちを、あるいは「末人」と呼び、あるいは「終末の開始」と呼ぶのである。 |
hiesse die Menschheit castriren und auf eine armselige Chineserei herunterbringen. ... In diesem Sinne nennt Zarathustra die Guten bald »die letzten Menschen«, bald den »Anfang vom Ende«; |