まずラカンのリアルな対象aは「喪失=去勢=穴」であることを示す。
対象a |
喪失 |
喪われ対象aの形態…永遠に喪われている対象の周りを循環すること自体が対象aの起源である[la forme de la fonction de l'objet perdu (a), …l'origine…il est à contourner cet objet éternellement manquant. ](Lacan, S11, 13 Mai 1964) |
去勢 |
私は常に、一義的な仕方で、この対象a を(-φ)[去勢]にて示している[cet objet(a)...ce que j'ai pointé toujours, d'une façon univoque, par l'algorithme (-φ).] (Lacan, S11, 11 mars 1964) |
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穴 |
対象aは、大他者自体の水準において示される穴である[l'objet(a), c'est le trou qui se désigne au niveau de l'Autre comme tel] (Lacan, S16, 27 Novembre 1968) |
このリアルな対象aは享楽自体と等価である。
享楽 |
喪失 |
フロイトは強調している、反復自体のなかに、享楽の喪失があると[FREUD insiste : que dans la répétition même, il y a déperdition de jouissance]。ここにフロイトの言説における喪われた対象の機能がある。これがフロイトだ[C'est là que prend origine dans le discours freudien la fonction de l'objet perdu. Cela c'est FREUD]. (Lacan, S17, 14 Janvier 1970) |
穴 |
享楽は、抹消として、穴埋めされるべき穴として示される他ない[la jouissance ne s'indiquant là que pour qu'on l'ait de cette effaçon, comme trou à combler. ](ラカン, Radiophonie, AE434, 1970) |
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去勢 |
享楽は去勢である[la jouissance est la castration.](Lacan parle à Bruxelles、Le 26 Février 1977) |
ラカンの穴とはトラウマということである。
現実界は穴=トラウマを為す[le Réel … fait « troumatisme ».](ラカン、S21、19 Février 1974) |
享楽は現実界にある[la jouissance c'est du Réel. ](Lacan, S23, 10 Février 1976) |
問題となっている現実界は、一般的にトラウマと呼ばれるものの価値をもっている[le Réel en question, a la valeur de ce qu'on appelle généralement un traumatisme. ](Lacan, S23, 13 Avril 1976) |
したがって享楽は穴ということは、享楽はトラウマということである。このトラウマがリアルな対象aである。 だが対象aには、このトラウマとしての対象a以外に、トラウマを穴埋めする剰余享楽がある。 |
◼️剰余享楽=穴埋め |
装置が作動するための剰余享楽の必要性がある。つまり享楽は、抹消として、穴埋めされるべき穴として示される他ない[la nécessité du plus-de-jouir pour que la machine tourne, la jouissance ne s'indiquant là que pour qu'on l'ait de cette effaçon, comme trou à combler. ](ラカン, Radiophonie, AE434, 1970) |
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ラカンは享楽と剰余享楽を区別した[il distinguera la jouissance du plus-de-jouir]。…空胞化された、穴としての享楽と、剰余享楽としての享楽[la jouissance comme évacuée, comme trou, et la jouissance du plus-de-jouir]である。対象aは穴と穴埋めなのである[petit a est …le trou et le bouchon]。われわれは(穴としての)対象aを去勢を含有しているものとして置く[Nous posons l'objet a en tant qu'il inclut (-φ) ](J.-A. Miller, Extimité, 16 avril 1986、摘要) |
剰余享楽としての享楽は、穴埋めだが、享楽の喪失を厳密に穴埋めすることは決してない[la jouissance comme plus-de-jouir, c'est-à-dire comme ce qui comble, mais ne comble jamais exactement la déperdition de jouissance](J.-A. Miller, Les six paradigmes de la jouissance, 1999) |
ジャック=アラン・ミレールが上で言っているように「穴=去勢=享楽の喪失」のトラウマはじゅうぶんには穴埋めされない。享楽の残滓(穴の残滓=トラウマの残滓)がある。 ◼️享楽の残滓 |
享楽は残滓 (а) による[la jouissance…par ce reste : (а) ](Lacan, S10, 13 Mars 1963) |
異者は、残存物、小さな残滓である[L'étrange, c'est que FREUD…c'est-à-dire le déchet, le petit reste, ](Lacan, S10, 23 Janvier 1963) |
異者としての身体…問題となっている対象aは、まったき異者である[corps étranger,…le (a) dont il s'agit,… absolument étranger ](Lacan, S10, 30 Janvier 1963) |
対象aはリビドーの固着点に現れる[petit(a) …apparaît que les points de fixation de la libido ](Lacan, S10, 26 Juin 1963) |
この残滓を図示すれば次のようになる。 この図の意味は、人はみな上辺の剰余享楽で下辺の享楽の穴を穴埋めするが、「異者としての身体」の残滓、つまり下辺のトラウマの残滓が常にある、ということだ。 ミレールで補足しよう。 |
いわゆる享楽の残滓 [reste de jouissance]。ラカンはこの残滓を一度だけ言った。だが基本的にそれで充分である。そこでは、ラカンはフロイトによって触発され、リビドーの固着点 [points de fixation de la libido]を語った。 固着点はフロイトにとって、分離されて発達段階の弁証法に抵抗するものである[C'est-à-dire ce qui chez Freud précisément est isolé comme résistant à la dialectique du développement. ] 固着は、どの享楽の経済においても、象徴的止揚に抵抗し、ファルス化をもたらさないものである[La fixation désigne ce qui est rétif à l'Aufhebung signifiante, ce qui dans l'économie de la jouissance de chacun ne cède pas à la phallicisation.] (J.-A. MILLER, - Orientation lacanienne III- 5/05/2004) |
残滓…現実界のなかの異者概念(異者としての身体概念)は明瞭に、享楽と結びついた最も深淵な地位にある[reste…une idée de l'objet étrange dans le réel. C'est évidemment son statut le plus profond en tant que lié à la jouissance ](J.-A. MILLER, Orientation lacanienne III, 6 -16/06/2004) |
《固着は、享楽の経済において、ファルス化をなされないもの》とあるが、ファルス化とは言語化のことである。ーー《ファルスの意味作用とは実際は重複語である。言語には、ファルス以外の意味作用はない。Die Bedeutung des Phallus est en réalité un pléonasme : il n'y a pas dans le langage d'autre Bedeutung que le phallus. 》(ラカン, S18, 09 Juin 1971)。この言語化なされない残滓が異者としての身体である。
これはフロイトの叙述なら次のものに相当する。
原抑圧と同時に固着が行われ、暗闇に異者が蔓延る[Urverdrängung[…] Mit dieser ist eine Fixierung gegeben; …wuchert dann sozusagen im Dunkeln, fremd erscheinen müssen,](フロイト『抑圧』1915年、摘要) |
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抑圧の第一段階ーー原抑圧された欲動ーーは、あらゆる「抑圧」の先駆けでありその条件をなしている固着である[Die erste Phase besteht in der Fixierung, (primär verdrängten Triebe) dem Vorläufer und der Bedingung einer jeden »Verdrängung«. ]。この欲動の固着[Fixierungen der Triebe] は、以後に継起する病いの基盤を構成する。(フロイト『症例シュレーバー 』1911年、摘要) |
(原)抑圧されたものは異者(異者としての身体)として分離されている[Verdrängten … sind sie isoliert, wie Fremdkörper] 〔・・・〕抑圧されたものはエスに属し、エスと同じメカニズムに従う[Das Verdrängte ist dem Es zuzurechnen und unterliegt auch den Mechanismen desselben]。(この異者としての身体は)原無意識としてエスのなかに(残滓として)置き残されたままである。,(フロイト『モーセと一神教』3.1.5 Schwierigkeiten, 1939年、摘要) |
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より直接的な残滓の記述であるなら次の二文である。
常に残存現象がある。つまり部分的な置き残しがある。〔・・・〕標準的発達においてさえ、転換は決して完全には起こらず、最終的な配置においても、以前のリビドー固着の残滓が存続しうる。Es gibt fast immer Resterscheinungen, ein partielles Zurückbleiben. […]daß selbst bei normaler Entwicklung die Umwandlung nie vollständig geschieht, so daß noch in der endgültigen Gestaltung Reste der früheren Libidofixierungen erhalten bleiben können. (フロイト『終りある分析と終りなき分析』第3章、1937年) |
母へのエロス的固着の残滓は、しばしば母への過剰な依存形式として居残る。そしてこれは女への拘束として存続する。Als Rest der erotischen Fixierung an die Mutter stellt sich oft eine übergrosse Abhängigkeit von ihr her, die sich später als Hörigkeit gegen das Weib fortsetzen wird. (フロイト『精神分析概説』第7章、1939年) |
ラカンが母は対象aだというとき、このリビドー固着の残滓を意味している。
母は構造的に対象aの水準にて機能する。C'est cela qui permet à la mamme de fonctionner structuralement au niveau du (а). (Lacan, S10, 15 Mai 1963 ) |
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ーー上にも引用したが、再度確認しておこう、《対象aはリビドーの固着点に現れる[petit(a) …apparaît que les points de fixation de la libido ]》(Lacan, S10, 26 Juin 1963)。そしてこの対象aが、「異者としての身体(le corps étranger)]ーーフロイトの’"Fremdkörper"ーーであることも上で示した。 固着は常に母への固着とは限らない。だが人間の発達段階における最初の固着はほとんど常に母への固着である。
以上、対象aには三形態があることを示した(常に残滓があるということを念頭におけば、事実上は二形態でよいとはいえ)。 …………… 以下は、上で示した引用群と重なるところが多分にあるが、固着のポジション、そして固着の意味合いをもう少し詳しく示すための文献群である。
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