フロイトの抑圧には原抑圧と後期抑圧がある(参照:原抑圧文献)。 |
われわれが治療の仕事で扱う多くの抑圧は、後期抑圧の場合である。それは早期に起こった原抑圧を前提とするものであり、これが新しい状況にたいして引力をあたえる[die meisten Verdrängungen, mit denen wir bei der therapeutischen Arbeit zu tun bekommen, Fälle von Nachdrängen (Nachverdrängung) sind. Sie setzen früher erfolgte Urverdrängungen voraus, die auf die neuere Situation ihren anziehenden Einfluß ausüben. ](フロイト『制止、症状、不安』第2章、1926年) |
この両概念の内実は次のように区分できる。
欲動のトラウマは身体的要求であり、最下段はシンプルに「身体/言語」とすることもできる。
フロイトが「抑圧されたものの回帰」というとき、どちらの回帰を言っているのか。これはフロイト自身、ときに原抑圧、ときに後期抑圧に触れているように見え、ひどくわかりにくいが、抑圧されたものの回帰には、この身体的レミニサンスと言語的想起の区分があることは是非とも念頭に入れておかねばならない。
ラカンはレミニサンスと想起を区別しつつ、現実界のトラウマはレミニサンスに結びつくとした。 |
私は問題となっている現実界は、一般的にトラウマと呼ばれるものの価値をもっていると考えている。これを「強制」呼ぼう。これを感じること、これに触れることは可能である、レミニサンスと呼ばれるものによって。レミニサンスは想起とは異なる[Je considère que …le Réel en question, a la valeur de ce qu'on appelle généralement un traumatisme. …Disons que c'est un forçage. …c'est ça qui rend sensible, qui fait toucher du doigt… ce que peut être ce qu'on appelle la réminiscence. …la réminiscence est distincte de la remémoration] (Lacan, S23, 13 Avril 1976、摘要) |
このレミニサンスするトラウマはフロイトの「異者としての身体」に相当する。 |
トラウマないしはトラウマの記憶は、異者としての身体 [Fremdkörper] のように作用する。これは後の時間に目覚めた意識のなかに心的痛み[psychischer Schmerz]を呼び起こし、殆どの場合、レミニサンス[Reminiszenzen]を引き起こす。 das psychische Trauma, respektive die Erinnerung an dasselbe, nach Art eines Fremdkörpers wirkt,..…als auslösende Ursache, wie etwa ein im wachen Bewußtsein erinnerter psychischer Schmerz … leide größtenteils an Reminiszenzen.(フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年、摘要) |
異者としての身体の別名は、エスの欲動蠢動である。 |
エスの欲動蠢動は、自我組織の外部に存在し、自我の治外法権である。われわれはこのエスの欲動蠢動を、たえず刺激や反応現象を起こしている異者としての身体 [Fremdkörper]の症状と呼んでいる。 Triebregung des Es … ist Existenz außerhalb der Ichorganisation …der Exterritorialität, …betrachtet das Symptom als einen Fremdkörper, der unaufhörlich Reiz- und Reaktionserscheinungen (フロイト『制止、症状、不安』第3章、1926年、摘要) |
この異者は原抑圧(固着)によって発生する。 |
固着に伴い原抑圧がなされ、暗闇に異者が蔓延る[Urverdrängung…Mit dieser ist eine Fixierung gegeben; …wuchert dann sozusagen im Dunkeln, fremd erscheinen müssen](フロイト『抑圧』1915年、摘要) |
ラカンの現実界はこのフロイトの原抑圧のトラウマである。 |
私が目指すこの穴、それを原抑圧自体のなかに認知する[c'est ce trou que je vise, que je reconnais dans l'Urverdrängung elle-même].(Lacan, S23, 09 Décembre 1975) |
現実界は穴=トラウマをなす[le Réel …fait « troumatisme ».](Lacan, S21, 19 Février 1974) |
フロイトにとって原抑圧の別名は固着あるいは排除である。 |
抑圧の第一段階ーー原抑圧された欲動ーーは、あらゆる「抑圧」の先駆けでありその条件をなしている固着である[Die erste Phase besteht in der Fixierung, (primär verdrängten Triebe) dem Vorläufer und der Bedingung einer jeden »Verdrängung«. ]。(フロイト『症例シュレーバー 』1911年、摘要) |
※原抑圧された欲動 [primär verdrängten Triebe]= 《排除された欲動 [verworfenen Trieb]》(『快原理の彼岸』1920年) |
以上、ラカンの現実界の享楽はフロイトの原抑圧のトラウマであり、レミニサンスする異者としての身体なのである。 |
享楽は現実界にある。現実界の享楽である[la jouissance c'est du Réel. …Jouissance du réel](Lacan, S23, 10 Février 1976) |
フロイトのモノを私は現実界と呼ぶ[La Chose freudienne … ce que j'appelle le Réel ](ラカン, S23, 13 Avril 1976) |
モノの概念、それは異者としてのモノである[La notion de ce Ding, de ce Ding comme fremde, comme étranger] (Lacan, S7, 09 Décembre 1959) |
われわれにとって異者としての身体[ un corps qui nous est étranger](Lacan, S23, 11 Mai 1976) |
他方、後期抑圧側は象徴界の欲望[ Désir du symbolique]の審級にある。 |
欲望は大他者に由来する、そして享楽はモノの側にある[le désir vient de l'Autre, et la jouissance est du côté de la Chose](Lacan, E853, 1964年) |
大他者とは父の名の効果としての言語自体である [grand A…c'est que le langage comme tel a l'effet du Nom-du-père.](J.-A. MILLER, Le Partenaire-Symptôme, 14/1/98) |
欲望は自然の部分ではない。欲望は言語に結びついている。それは文化で作られている。より厳密に言えば、欲望は象徴界の効果である[le désir ne relève pas de la nature : il tient au langage. C'est un fait de culture, ou plus exactement un effet du symbolique.](J.-A. MILLER "Le Point : Lacan, professeur de désir" 06/06/2013) |
象徴界は言語である[Le Symbolique, c'est le langage](Lacan, S25, 10 Janvier 1978) |