2022年7月2日土曜日

固着と異者図


固着概念は、身体的要素と表象的要素の両方を含んでいる[the concept of "fixation" … it contains both a somatic and a representational element](ポール・バーハウ Paul Verhaeghe, BEYOND GENDER, 2001年)

固着は一者と身体の結合である[Fixierung…c'est la conjonction de l'Un et du corps].(J.-A. MILLER, - L'ÊTRE ET L'UN -  18/05/2011)


※一者[l'Un]=一者のシニフィアン[ Le signifiant Un](Lacan, S20, 26 Juin 1973、摘要)




①対象aは穴としての身体である。

対象aは穴である[l'objet(a), c'est le trou] (Lacan, S16, 27 Novembre 1968)

身体は穴である[(le) corps…C'est un trou](Lacan, conférence du 30 novembre 1974, Nice)


②穴は現実界のトラウマであり、異者としての身体である。

現実界は穴=トラウマをなす[le Réel …fait « troumatisme ».](Lacan, S21, 19 Février 1974)

トラウマないしはトラウマの記憶は、異者としての身体[Fremdkörper] のように作用する[das psychische Trauma, respektive die Erinnerung an dasselbe, nach Art eines Fremdkörpers wirkt](フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年)


③現実界の対象aは異者としての身体である。

対象aは現実界の審級にある[(a) est de l'ordre du réel.]   (Lacan, S13, 05 Janvier 1966)

異者としての身体…問題となっている対象aは、まったき異者である[corps étranger,…le (a) dont il s'agit,…absolument étranger ](Lacan, S10, 30 Janvier 1963)

われわれにとって異者としての身体[un corps qui nous est étranger](Lacan, S23, 11 Mai 1976)








④固着を通してエスに異者としての身体が蔓延る。

固着に伴い原抑圧がなされ、暗闇に異者が蔓延る[Urverdrängung…Mit dieser ist eine Fixierung gegeben; …wuchert dann sozusagen im Dunkeln, fremd erscheinen müssen](フロイト『抑圧』1915年、摘要)

常に残滓現象がある。つまり部分的な置き残しがある。〔・・・〕標準的発達においてさえ、転換は決して完全には起こらず、最終的な配置においても、以前のリビドー固着の残滓(置き残し)が存続しうる。Es gibt fast immer Resterscheinungen, ein partielles Zurückbleiben. […]daß selbst bei normaler Entwicklung die Umwandlung nie vollständig geschieht, so daß noch in der endgültigen Gestaltung Reste der früheren Libidofixierungen erhalten bleiben können. (フロイト『終りある分析と終りなき分析』第3章、1937年)

異者としての身体は原無意識としてエスのなかに置き残される[Fremdkörper…bleibt als das eigentliche Unbewußte im Es zurück. ](フロイト『モーセと一神教』3.1.5 Schwierigkeiten, 1939年、摘要)

フロイトの異者は置き残し、小さな残滓である[L'étrange, c'est que FREUD…c'est-à-dire le déchet, le petit reste,](Lacan, S10, 23 Janvier 1963)


⑤異者としての身体はレミニサンスする

異者としての身体 [Fremdkörper] は、覚醒時のー意識のなかに心的痛みを呼び起こし、殆どの場合、レミニサンス[Reminiszenzen]を引き起こす。[Fremdkörpers ,..…im wachen Bewußtsein erinnerter psychischer Schmerz …  leide größtenteils an Reminiszenzen.」(フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年、摘要)


⑥異者は不気味なものである

不気味なものは、抑圧の過程によって異者化されている[dies Unheimliche ist …das ihm nur durch den Prozeß der Verdrängung entfremdet worden ist.](フロイト『不気味なもの』第2章、1919年、摘要)

異者がいる。異者とは、厳密にフロイトの意味での不気味なものである[Il est étrange… étrange au sens proprement freudien : unheimlich] (Lacan, S22, 19 Novembre 1974)


⑦不気味なものは同一のものの回帰=反復強迫である

いかに同一のものの回帰という不気味なもの[das Unheimliche der gleichartigen Wiederkehr ]が、幼児期の心的生活から引き出しうるか。〔・・・〕心的無意識のうちには、欲動蠢動から生ずる反復強迫[Triebregungen ausgehenden Wiederholungszwanges」の支配が認められる。これはおそらく欲動の性質にとって生得的な、快原理を超越するほど強いものであり、心的生活の或る相にデモーニッシュな性格を与える。〔・・・〕


不気味なものとして感知されるものは、この内的反復強迫を思い起こさせるものである[daß dasjenige als unheimlich verspürt werden wird, was an diesen inneren Wiederholungszwang mahnen kann.](フロイト『不気味なもの Das Unheimliche』第2章、1919年)


⑧反復強迫とは同一のものの永遠回帰である

同一の出来事の反復[Wiederholung der nämlichen Erlebnisse]の中に現れる不変の個性刻印[gleichbleibenden Charakterzug]を見出すならば、われわれは同一のものの永遠回帰[ewige Wiederkehr des Gleichen]をさして不思議とも思わない。〔・・・〕この反復強迫[Wiederholungszwang]〔・・・〕あるいは運命強迫 [Schicksalszwang nennen könnte ]とも名づけることができるようなものについては、合理的な考察によって解明できる点が多い。(フロイト『快原理の彼岸』第3章、1920年)


⑨反復強迫は死の欲動である

われわれは反復強迫の特徴に、何よりもまず死の欲動を見出だす。

Charakter eines Wiederholungszwanges […] der uns zuerst zur Aufspürung der Todestriebe führte.(フロイト『快原理の彼岸』第6章、1920年)


以上、固着と異者図(固着の反復図)こそ、レミニサンス=永遠回帰=死の欲動図である。





ラカンがサントームを「一者がある Y'a d'l'Un」に還元したとき、この「一者がある」は、シニフィアンの分節化の残滓として、現実界の本源的反復を引き起こす。ラカンは言っている、二者はないと。この反復においてそれ自身を反復するのは、ひたすら一者である。しかしこの一者は身体ではない。一者と身体がある。[Lorsque Lacan réduit le sinthome à Y'a d'l'Un, il dégage comme son réel essentiel l'itération, …comme ce qui reste de l'articulation signifiante. Il voulait dire qu'il n'y a pas de deux. Il n'y a que le un qui se répète dans l'itération. Mais cet Un n'est pas le corps. Il y a le Un et le corps」(Hélène Bonnaud, Percussion du signifiant dans le corps à l'entrée et à la fin de l'analyse , 2013)

サントームは固着の反復である。サントームは反復プラス固着である[le sinthome c'est la répétition d'une fixation, c'est même la répétition + la fixation]. (Alexandre Stevens, Fixation et Répétition ― NLS argument, 2021/06)