2022年7月6日水曜日

サントームは外傷神経症である

 

◼️サントームは身体の出来事である

症状は身体の出来事である[le symptôme à ce qu'il est : un événement de corps](Lacan, JOYCE LE SYMPTOME,AE.569、16 juin 1975)

サントームは後に症状と書かれるものの古い書き方である[LE SINTHOME.  C'est une façon ancienne d'écrire ce qui a été ultérieurement écrit SYMPTÔME.] (Lacan, S23, 18 Novembre 1975)



◼️身体の出来事は固着である

サントームは身体の出来事として定義される [Le sinthome est défini comme un événement de corps](J.-A. MILLER,, L'Être et l'Un, 30/3/2011)

サントームは固着の反復である。サントームは反復プラス固着である[le sinthome c'est la répétition d'une fixation, c'est même la répétition + la fixation]. (Alexandre Stevens, Fixation et Répétition ― NLS argument, 2021/06)


◼️身体の出来事はトラウマであり、トラウマへの固着は身体の出来事への固着である。

トラウマは自己身体の出来事もしくは感覚知覚である[Die Traumen sind entweder Erlebnisse am eigenen Körper oder Sinneswahrnehmungen]〔・・・〕

このトラウマの作用はトラウマへの固着と反復強迫として要約できる[Man faßt diese Bemühungen zusammen als Fixierung an das Trauma und als Wiederholungszwang. ]。


この固着は、標準的自我と呼ばれるもののなかに含まれ、絶え間ない同一の傾向をもっており、不変の個性刻印 と呼びうる[Sie können in das sog. normale Ich aufgenommen werden und als ständige Tendenzen desselben ihm unwandelbare Charakterzüge verleihen]。 (フロイト『モーセと一神教』「3.1.3 Die Analogie」1939年)


◼️フロイトにおいて固着は外傷神経症である

外傷神経症は、外傷的出来事の瞬間への固着がその根に横たわっていることを明瞭に示している[Die traumatischen Neurosen geben deutliche Anzeichen dafür, daß ihnen eine Fixierung an den Moment des traumatischen Unfalles zugrunde liegt.]

これらの患者はその夢のなかで、規則的に外傷的状況を反復する[In ihren Träumen wiederholen diese Kranken regelmäßig die traumatische Situation] (フロイト『精神分析入門』第18講「トラウマへの固着、無意識への固着 Die Fixierung an das Trauma, das Unbewußte」1917年)

トラウマ的固着[traumatischen Fixierung]…ここで外傷性神経症[traumatische Neurose ]は我々に究極の事例を提供してくれる。だが我々はまた認めなければならない、幼児期の出来事もまたトラウマ的特徴をもっていることを[aber man muß auch den Kindheitserlebnissen den traumatischen Charakter zugestehen ](フロイト『続精神分析入門』29. Vorlesung. Revision der Traumlehre, 1933 年)





◼️サントームは固着のトラウマである

サントームは現実界・無意識の現実界に関係する[(Le) sinthome,  …ce qu'il a à faire avec le Réel, avec le Réel de l'Inconscient ]  (Lacan, S23, 17 Février 1976)

問題となっている現実界は、一般的にトラウマと呼ばれるものの価値を持っている[le Réel en question, a la valeur de ce qu'on appelle généralement un traumatisme.  ](Lacan, S23, 13 Avril 1976)

原固着 [Urfixierung ]は原トラウマ[Urtrauma]である(フロイト『終りある分析と終りなき分析』第1章、1937年、摘要)




◼️主体はトラウマである

現実界のなかの穴は主体である[Un trou dans le réel, voilà le sujet. ](Lacan, S13, 15 Décembre 1965)

現実界は、穴=トラウマをなす[ le Réel.  fait « troumatisme ».](Lacan, S21, 19 Février 1974)


ラカンの穴=トラウマによる言葉遊び[le jeu de mots de Lacan sur le troumatism]。トラウマの穴はそこにある。そしてこの穴の唯一の定義は、主体をその場に置くことである[Le trou du traumatisme est là, et ce trou est la seule définition qu'on puisse donner du sujet à cette place] (J.-A. MILLER, - Illuminations profanes - 10/05/2006)

人はみなトラウマ化されている。…この意味はすべての人にとって穴があるということである[tout le monde est traumatisé …ce qu'il y a pour tous ceux-là, c'est un trou.  ](J.-A. Miller, Vie de Lacan, 17/03/2010)




◼️欲動のリアルは固着の穴(トラウマ)である。

欲動の現実界がある。私はそれを穴の機能に還元する。…穴は原抑圧と関係がある[il y a un réel pulsionnel … je réduis à la fonction du trou.…La relation de cet Urverdrängt](Lacan, Réponse à une question de Marcel Ritter、Strasbourg le 26 janvier 1975)

抑圧の第一段階ーー原抑圧された欲動ーーは、あらゆる「抑圧」の先駆けでありその条件をなしている固着である[Die erste Phase besteht in der Fixierung, (primär verdrängten Triebe) dem Vorläufer und der Bedingung einer jeden  »Verdrängung«. ](フロイト『症例シュレーバー 』1911年、摘要)


固着が身体の物質性としての享楽の実体のなかに穴をなす。固着が無意識のリアルな穴を身体に掘る。このリアルな穴は閉じられることはない[Une fixation qui finalement fait trou dans la substance jouissance qu'est le corps matériel, qui y creuse le trou réel de l'inconscient, celui qui ne se referme pas](ピエール=ジル・ゲガーン Pierre-Gilles Guéguen, ON NE GUÉRIT PAS DE L'INCONSCIENT, 2015)

身体は穴である[(le) corps…C'est un trou](Lacan, conférence du 30 novembre 1974, Nice)




◼️人はみな構造的トラウマをもっている

人はみなトラウマに出会う。その理由は、われわれ自身の欲動の特性のためである。このトラウマは構造的トラウマ[Structural Trauma]として考えられなければならない。その意味は、不可避のトラウマだということである。このトラウマのすべては、主体性の構造にかかわる。そして構造的トラウマの上に、われわれの何割かは別のトラウマに出会う。外部から来る事故的トラウマ[Accidental Trauma]である。(ポール・バーハウPaul Verhaeghe, Beyond Gender, From subject to drive, 2001)


すべての神経症的障害の原因[Die Ätiologie aller neurotischen Störungen]は混合的なものである。すなわち、それはあまりに強すぎる欲動[widerspenstige Triebe]が自我による飼い馴らし[Bändigung]に反抗しているか、あるいは幼児期の、すなわち初期のトラウマ体験[frühzeitigen, d. h. vorzeitigen Traumen]を、当時未成熟だった自我が支配することができなかったためかのいずれかである。


概してそれは二つの契機、素因的なものと偶然的なもの[des konstitutionellen und des akzidentellen]との結びつきによる作用である。素因的なものが強ければ強いほど、速やかにトラウマは固着を生じやすく[Trauma zur Fixierung führen]、精神発達の障害を後に残すものであるし、トラウマ的なものが強ければ強いほどますます確実に、正常な欲動状態においてもその障害が現われる可能性は増大する[je stärker das Trauma, desto sicherer wird es seine Schädigung auch unter normalen Triebverhältnissen äußern.](フロイト『終りある分析と終りなき分析』第2章, 1937年)




◼️神経症はトラウマの病いである

神経症はトラウマの病いと等価とみなしうる。その情動的特徴が甚だしく強烈なトラウマ的出来事を取り扱えないことにより、神経症は生じる[Die Neurose wäre einer traumatischen Erkrankung gleichzusetzen und entstünde durch die Unfähigkeit, ein überstark affektbetontes Erlebnis zu erledigen. ](フロイト『精神分析入門』第18講「トラウマへの固着、無意識への固着 Die Fixierung an das Trauma, das Unbewußte」11917年)


◼️神経症は二種類ある

現勢神経症の症状は、しばしば、精神神経症の症状の核であり、先駆けである。das Symptom der Aktualneurose ist nämlich häufig der Kern und die Vorstufe des psychoneurotischen Symptoms. (フロイト『精神分析入門』第24章、1917年)


◼️現勢神経症は原抑圧の病い、精神神経症は後期抑圧の病いである

おそらく最初期の抑圧(原抑圧)が、現勢神経症の病理を為す。die wahrscheinlich frühesten Verdrängungen, …in der Ätiologie der Aktualneurosen verwirklicht ist, 〔・・・〕

精神神経症は、現勢神経症を基盤としてとくに容易に発達する。daß sich auf dem Boden dieser Aktualneurosen besonders leicht Psychoneurosen entwickeln,(フロイト『制止、症状、不安』第8章、1926年)

われわれが治療の仕事で扱う多くの抑圧は、後期抑圧の場合である。それは早期に起こった原抑圧を前提とするものであり、これが新しい状況にたいして引力をあたえる。die meisten Verdrängungen, mit denen wir bei der therapeutischen Arbeit zu tun bekommen, Fälle von Nachdrängen sind. Sie setzen früher erfolgte Urverdrängungen voraus, die auf die neuere Situation ihren anziehenden Einfluß ausüben. (フロイト『制止、症状、不安』第2章、1926年


◼️精神神経症は現勢神経症に対する防衛の症状である

現実界は明らかに、それ自体トラウマ的であり、基本情動として原不安を生む。想像界と象徴界内での心的操作はこのトラウマ的現実界に対する防衛を構築することを目指す[The Real is apparently traumatic in itself and yields a primal anxiety as a basic affect. The psychical working-over of it within the Imaginary and the Symbolic aims at building up a defence against this traumatic Real. ](ポール・バーハウ Paul Verhaeghe, Does the woman exist? 1997)


◼️現勢神経症は精神神経症とは、下部構造と上部構造である

フロイトはその理論の最初から、症状には二重の構造があることを識別していた。一方には「欲動」、他方には「心的なもの」(心的外被[psychische Umkleidung])である(現勢神経症と精神神経症)。ラカン用語なら、現実界と象徴界である。

これはフロイトの最初の事例研究「症例ドラ」に明瞭に現れている。この事例において、フロイトは防衛理論については何も言い添えていない。防衛の「精神神経症」については、既に先行する二論文(1894, 1896)にて詳述されている。逆に「症例ドラ」の核心は、症状の二重構造だと言い得る。フロイトが焦点を当てるのは、現実界、すなわち欲動に関する要素である。彼はその要素を、身体側からの反応 [Somatisches Entgegenkommen]という用語で示している。この語は、『性理論三篇』にて、「リビドーの固着[Fixierung der Libido](欲動の固着[Fixierung der Triebe] 」と呼ばれるようになったものである。〔・・・〕

この二重構造の光の下では、どの症状も二様の方法で研究されなければならない。ラカンにとって、恐怖症と転換症状は《症状の形式的覆い [l'enveloppe formelle du symptôme] 》(ラカン、E66)に帰着する。つまり欲動の現実界へ象徴的形式を与えるものである。したがって症状とは、享楽の現実界的核のまわりに設置された構築物である。フロイトの表現なら、真珠貝が真珠を造りだすその周囲の砂粒[Sandkorn also, um welches das Muscheltier die Perle bildet] である。享楽の現実界は症状の地階あるいは根なのであり、象徴界は上部構造なのである。[The Real of the jouissance is the ground or the root of the symptom, whilst the Symbolic concerns the upper structure. ](Paul Verhaeghe and Frédéric Declercq, Lacan’s goal of analysis: Le Sinthome or the feminine way 、2002)



以上、サントームは幼児期のトラウマへの固着であり、フロイト用語の外傷神経症=現勢神経症である。


サントームという享楽自体 [la jouissance propre du sinthome] (J.-A. Miller, Choses de finesse en psychanalyse, 17 décembre 2008)

享楽は身体の出来事である。身体の出来事の価値は、トラウマの審級にある。衝撃、不慮の出来事、純粋な偶然の審級に。この身体の出来事は固着の対象である。la jouissance est un événement de corps. La valeur d'événement de corps est […]  de l'ordre du traumatisme , du choc, de la contingence, du pur hasard,[…] elle est l'objet d'une fixation. ](J.-A. MILLER, L'Être et l'Un, 9/2/2011)

フロイトは、幼児期の享楽の固着の反復を発見したのである[Freud l'a découvert…une répétition de la fixation infantile de jouissance.] (J.-A. MILLER, LES US DU LAPS -22/03/2000)


享楽=固着=トラウマである。

享楽は真に固着にある。人は常にその固着に回帰する[La jouissance, c'est vraiment à la fixation …on y revient toujours.] (J.-A. Miller, Choses de finesse en psychanalyse, 20/5/2009)

分析経験において、享楽は、何よりもまず、固着を通してやって来る[Dans l'expérience analytique, la jouissance se présente avant tout par le biais de la fixation]. 〔・・・〕われわれはトラウマ化された享楽を扱っている[Nous avons affaire à une jouissance traumatisée]( J.-A. MILLER, L'ÉCONOMIE DE LA JOUISSANCE、2011)