ヴァントゥイユの小楽節が突然彼に痛みをひきおこした[la douleur subite que lui avait causée la petite phrase de Vinteuil] |
昔スワンが、自分の愛されていた日々のことを、比較的無関心に語りえたのは、その語り口のかげに、愛されていた日々とはべつのものを見ていたからであること、そしてヴァントゥイユの小楽節が突然彼に痛みをひきおこした[la douleur subite que lui avait causée la petite phrase de Vinteuil] のは、愛されていた日々そのものをかつて彼が感じたままによみがえらせたからであることを、私ははっきりと思いだしながら、不揃いなタイルの感覚、ナプキンのかたさ、マドレーヌの味が私に呼びおこしたものは、私がしばしば型にはまった一様な記憶のたすけで、ヴェネチアから、バルベックから、コンブレーから思いだそうと求めていたものとは、なんの関係もないことを、はっきりと理解するのであった。(プルースト「見出された時」) |
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①享楽の回帰[Retour de la jouissance]は痛みの回帰[Retour de la douleur]である |
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疑いもなく享楽があるのは、痛みが現れ始める水準である[Il y a incontestablement jouissance au niveau où commence d'apparaître la douleur](Lacan, Psychanalyse et medecine, 1966) |
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反復は享楽の回帰に基づいている[la répétition est fondée sur un retour de la jouissance](Lacan, S17, 14 Janvier 1970) |
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②現実界の享楽は異者としての身体である |
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享楽は現実界にある。現実界の享楽である[ la jouissance c'est du Réel. …Jouissance du réel](Lacan, S23, 10 Février 1976) |
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フロイトのモノを私は現実界と呼ぶ[La Chose freudienne … ce que j'appelle le Réel ](Lacan, S23, 13 Avril 1976) |
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モノの概念、それは異者としてのモノである[La notion de ce Ding, de ce Ding comme fremde, comme étranger](Lacan, S7, 09 Décembre 1959) |
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われわれにとって異者としての身体[un corps qui nous est étranger](Lacan, S23, 11 Mai 1976) |
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③現実界はトラウマであり、レミニサンスする |
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私は問題となっている現実界は、一般的にトラウマと呼ばれるものの価値をもっていると考えている。…これを感じること、これに触れることは可能である、レミニサンスと呼ばれるものによって。レミニサンスは想起とは異なる[Je considère que …le Réel en question, a la valeur de ce qu'on appelle généralement un traumatisme. …c'est ça qui rend sensible, qui fait toucher du doigt… ce que peut être ce qu'on appelle la réminiscence. …la réminiscence est distincte de la remémoration] (Lacan, S23, 13 Avril 1976、摘要) |
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④異者としての身体は心的痛みを伴ってレミニサンスする |
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トラウマないしはトラウマの記憶は、異者としての身体 [Fremdkörper] のように作用する。これは後の時間に目覚めた意識のなかに心的痛み[psychischer Schmerz]を呼び起こし、殆どの場合、レミニサンス[Reminiszenzen]を引き起こす。 das psychische Trauma, respektive die Erinnerung an dasselbe, nach Art eines Fremdkörpers wirkt,..…als auslösende Ursache, wie etwa ein im wachen Bewußtsein erinnerter psychischer Schmerz … leide größtenteils an Reminiszenzen.(フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年、摘要) |
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以上、享楽の回帰とは痛みのレミニサンス[Réminiscence de la douleur]である。別名、身体の出来事のレミニサンス。
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