①穴としての対象aは原抑圧されたもの
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私が目指すこの穴、それを原抑圧自体のなかに認知する[c'est ce trou que je vise, que je reconnais dans l'Urverdrängung elle-même].(Lacan, S23, 09 Décembre 1975)
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対象aは、大他者自体の水準において示される穴である[ l'objet(a), c'est le trou qui se désigne au niveau de l'Autre comme tel](Lacan, S16, 27 Novembre 1968)
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この二文から穴としての対象aは、原抑圧された対象となる。この対象aが現実界である。
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私は大他者に斜線を記す、Ⱥ(穴)と。…これは、大他者の場に呼び起こされるもの、すなわち対象aである。この対象aは現実界であり、表象化されえないものだ。[Je raye sur le grand A cette barre : Ⱥ, ce en quoi c'est là, …sur le champ de l'Autre, …à savoir de ce petit(a). …qu'il est réel et non représenté](Lacan, S13, 09 Février 1966)
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穴は喪失をも意味し、つまり喪われた対象aである。
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穴、すなわち喪失の場処 [un trou, un lieu de perte] (Lacan, S20, 09 Janvier 1973)
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喪われた対象a[l'objet perdu (a)](Lacan, S11, 13 Mai 1964)
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②穴としての主体は原抑圧されたもの
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現実界のなかの穴は主体である[Un trou dans le réel, voilà le sujet]. (Lacan, S13, 15 Décembre 1965)
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主体はどこにあるのか? われわれは唯一、喪われた対象としての主体を見出しうる。Où est le sujet ? On ne peut trouver le sujet que comme objet perdu.(ラカン, De la structure en tant qu'immixtion d'un Autre préalable à tout sujet possible, ーーintervention à l'Université Johns Hopkins, Baltimore, 1966)
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この二文から《対象aは主体自体である[le petit a est le sujet lui-même]( J.-A. MILLER, - Illuminations profanes - 16/11/2005)となる。そして、①において示したように、対象aは原抑圧された対象であり、したがって主体は原抑圧されたものとなる。
なおラカンにおいて主体は大きく言って二種類あることに注意。現実界の穴の主体は「享楽の主体」であり、他方、シニフィアンの主体、つまり象徴界の審級にある「欲望の主体」がある[参照]。原主体としての享楽の主体が原抑圧、享楽に対する防衛としての欲望の主体が後期抑圧の審級にある。
③トラウマの穴としての現実界は原抑圧されたもの
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まず①で示した穴=喪失は現実界のトラウマをも意味する。
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現実界はトラウマの穴をなす[le Réel …fait « troumatisme ».](Lacan, S21, 19 Février 1974)
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問題となっている現実界は、一般的にトラウマと呼ばれるものの価値を持っている[le Réel en question, a la valeur de ce qu'on appelle généralement un traumatisme. ](Lacan, S23, 13 Avril 1976)
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ラカンはハイデガー用語の外立 Ek-sistenz(参照)を借用して次のように言っている。
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現実界の外立[l'ex-sistence du Réel](Lacan, S22, 11 Mars 1975)
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原抑圧の外立[l'ex-sistence de l'Urverdrängt] (Lacan, S22, 08 Avril 1975)
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外立自体は穴をなすものとして定義される[L'ex-sistence comme telle se définit,…- fait trou.](Lacan, S22, 17 Décembre 1974)
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すなわち、外立とは現実界=原抑圧=穴であり、対象aである、《対象aの外立[l'ex-sistence de l'objet a]》 (J.-A. Miller LE LIEU ET LE LIEN, 23 mai 2001)
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外立はフロイトの原抑圧としての排除 Verwerfungーー自我の「外に放り投げる」を意味するーー、これがラカンの現実界である。
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現実界の排除[l'exclusion du réel] (Lacan, L'ÉTOURDIT, AE474, 1970)
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排除あるいは外立は同一である[terme de forclusion …ou d'ex-sistence…C'est le même.] (J.-A. MILLER, - L'Être et l 'Un - 25/05/2011)
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原抑圧の名は排除と呼ばれる[le nom du refoulement primordial…s'appelle la forclusion](J.-A. Miller, Choses de finesse en psychanalyse, 26 novembre 2008)
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ーーすなわち現実界=外立=排除=原抑圧である。
フロイトにおいて次の二文は同一である。
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原抑圧された欲動[primär verdrängten Triebe](フロイト『症例シュレーバー 』1911年)
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排除された欲動 [verworfenen Trieb](フロイト『快原理の彼岸』第4章、1920年)
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④現実界の症状サントームは原抑圧されたもの
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症状の外立[L'ex-sistence du symptôme ] (Lacan S23, 18 Novembre 1975)
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ここでの症状は現実界の症状サントームである。
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サントームは後に症状と書かれるものの古い書き方である[LE SINTHOME. C'est une façon ancienne d'écrire ce qui a été ultérieurement écrit SYMPTÔME.] (Lacan, S23, 18 Novembre 1975)
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サントームは現実界、無意識の現実界に関係する[(Le) sinthome, …ce qu'il a à faire avec le Réel, avec le Réel de l'Inconscient] (Lacan, S23, 17 Février 1976)
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つまり《症状の外立[L'ex-sistence du symptôme ] 》とは、サントームの外立[L'ex-sistence du sinthome ]のことであり、この現実界の症状サントームは対象aである。
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症状は対象aのポジションに繋がっている[le symptôme,… lier la position de petit(a) ] ( Lacan, S10, 12 Juin 1963)
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外立は③で示したように排除=原抑圧であり、原抑圧の症状サントームは原抑圧されたものとなる。
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ラカンにおいてまだまだ他にもフロイトの原抑圧に関わる多様な言い換えがあるが、ここでは四項目だけを示した。
➡︎続き「原抑圧された表象代理なる対象a」
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