ラカンの現実界の定義は何よりもまずジャック=アラン・ミレールの次の二文でよい。 |
現実界は、フロイトが「無意識」と「欲動」と呼んだものである[le réel à la fois de ce que Freud a appelé « inconscient » et « pulsion ».](Jacques-Alain Miller, HABEAS CORPUS, avril 2016) |
ラカンの現実界はフロイトがトラウマと呼んだものである。ラカンの現実界は常にトラウマ的である。それは言説のなかの穴である[ce réel de Lacan … c'est ce que Freud a appelé le trauma. Le réel de Lacan est toujours traumatique. C'est un trou dans le discours. ] (J.-A. Miller, La psychanalyse, sa place parmi les sciences, mars 2011) |
すなわち現実界はフロイトの無意識・欲動・トラウマである。穴とあるのはラカンはトラウマを穴とも呼んだから。 |
現実界はトラウマの穴をなす[le Réel …ça fait « troumatisme ».](Lacan, S21, 19 Février 1974) |
欲動の現実界がある。私はそれを穴の機能に還元する[il y a un réel pulsionnel … je réduis à la fonction du trou](Lacan, Réponse à une question de Marcel Ritter、Strasbourg le 26 janvier 1975) |
そしてこの穴は原抑圧による穴だ。 |
私が目指すこの穴、それを原抑圧自体のなかに認知する[c'est ce trou que je vise, que je reconnais dans l'Urverdrängung elle-même](Lacan, S23, 09 Décembre 1975) |
フロイトの原抑圧については種々引用してきたが、まずは『抑圧』論文の次の箇所でよい。 |
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われわれには原抑圧[Urverdrängung]、つまり、抑圧の第一段階を仮定する根拠がある。それは欲動の心的(表象-)代理が意識的なものへの受け入れを拒まれるという事実から成り、これにより固着[Fixerung]がもたらされる。問題となっている欲動の代理はそれ以後不変のまま存続し、欲動はそれに拘束される。 Wir haben also Grund, eine Urverdrängung anzunehmen, eine erste Phase der Verdrängung, die darin besteht, daß der psychischen (Vorstellungs-)Repräsentanz des Triebes die Übernahme ins Bewußte versagt wird. Mit dieser ist eine Fixierung gegeben; die betreffende Repräsentanz bleibt von da an unveränderlich bestehen und der Trieb an sie gebunden.〔・・・〕 欲動代理[Triebrepräsentanz]は抑圧により意識の影響をまぬがれると、よりいっそう自由に豊かに展開する。それはいわば暗闇に蔓延り、極端な表現形式を見いだし、異者[fremd]のようなものして現れる。 die Triebrepräsentanz sich ungestörter und reichhaltiger entwickelt, wenn sie durch die Verdrängung dem bewußten Einfluß entzogen ist. Sie wuchert dann sozusagen im Dunkeln und findet extreme Ausdrucksformen, […] fremd erscheinen müssen (フロイト『抑圧』1915年) |
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ーーここでのフロイトは原抑圧と欲動代理と固着を等置している。この三つの用語が無意識の核である。 |
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無意識の核は欲動代理で成り立っている[Der Kern des Ubw besteht aus Triebrepräsentanzen](フロイト『無意識』第5章、1915 年) |
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そして「暗闇に蔓延る異者」とあるのが、トラウマかつエスの欲動である。 |
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トラウマないしはトラウマの記憶は、異者としての身体 [Fremdkörper] のように作用する。das psychische Trauma, respektive die Erinnerung an dasselbe, nach Art eines Fremdkörpers wirkt(フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年) |
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エスの欲動蠢動は、自我組織の外部に存在し、自我の治外法権である。われわれはこのエスの欲動蠢動を、たえず刺激や反応現象を起こしている異者としての身体 [Fremdkörper]の症状と呼んでいる。 Triebregung des Es … ist Existenz außerhalb der Ichorganisation …der Exterritorialität, …betrachtet das Symptom als einen Fremdkörper, der unaufhörlich Reiz- und Reaktionserscheinungen (フロイト『制止、症状、不安』第3章、1926年、摘要) |
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なおここでの無意識は「言語のように構造化された無意識」とは異なるので注意[参照]。