フロイトは超自我概念を初めて提出した『自我とエス』で次のように記した。 |
自我内部の分化は、自我理想あるいは超自我と呼びうる[eine Differenzierung innerhalb des Ichs, die Ich-Ideal oder Über-Ich zu nennen ist](フロイト『自我とエス』第3章、1923年) |
この自我理想は父の代理である。 |
自我理想は父の代理である[Ichideals …ist ihnen ein Vaterersatz.](フロイト『集団心理学と自我の分析』第5章、摘要、1921年) |
したがってフロイトの超自我はエディプス的超自我[Ödipales Über-Ich]だと一般には見なされてきた。 |
エディプスコンプレクスの代理となる超自我[das Über-Ich, der Ersatz des Ödipuskomplexes](フロイト『マゾヒズムの経済論的問題』1924年) |
だがその後、フロイトの記述には揺れ動きがある。父あるいは育ての親(父母)とあるのである。 |
父あるいは育ての親の権威の自我への取り入れは超自我の核である[Die ins Ich introjizierte Vater- oder Elternautorität bildet dort den Kern des Über-Ichs](フロイト『エディプスコンプレクスの崩壊』1924年) |
超自我は外界の代理であると同時にエスの代理である。超自我は、エスのリビドー蠢動の最初の対象、つまり育ての親の自我への取り入れである[Dies Über-Ich ist nämlich ebensosehr der Vertreter des Es wie der Außenwelt. Es ist dadurch entstanden, daß die ersten Objekte der libidinösen Regungen des Es, das Elternpaar, ins Ich introjiziert wurden](フロイト『マゾヒズムの経済論的問題』1924年) |
超自我への取り入れ[Introjektion ins Über-Ich]……幼児は、優位に立つ権威を同一化によって自分の中に取り入れる。 するとこの他者は、幼児の超自我になる[das Kind ...indem es diese unangreifbare Autorität durch Identifizierung in sich aufnimmt, die nun das Über-Ich wird ](フロイト『文化の中の居心地の悪さ』第7章、1930年) |
ーーフロイトは取り入れ[Introjektion]と同一化 [Identifizierung ]用語を使って超自我を語っている。さらに上の二番目の文には「エスのリビドー蠢動の最初の対象の取り入れ」ともある。この最初の対象は常識的に考えて幼児に滋養を与えて世話をする母であるだろう。 |
ここで同一化用語におけるフロイトの記述を見てみよう。 |
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父との同一化と同時に、おそらくはそれ以前にも、幼児は、母にたいする依存型の本格的対象備給を向け始める。 Gleichzeitig mit dieser Identifizierung mit dem Vater, vielleicht sogar vorher, hat der Knabe begonnen, eine richtige Objektbesetzung der Mutter nach dem Anlehnungstypus vorzunehmen.(フロイト『集団心理学と自我の分析』第7章「同一化」、1921年) |
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母に対する対象備給とあるが、これが事実上の原同一化である。 |
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個人の原始的な口唇期の初めにおいて、対象備給と同一化は互いに区別されていなかった。Uranfänglich in der primitiven oralen Phase des Individuums sind Objektbesetzung und Identifizierung wohl nicht voneinander zu unterscheiden. (フロイト『自我とエス』第3章、1923年) |
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つまり、《前エディプス期の母との同一化[Die Mutteridentifizierung …die präödipale]》(フロイト「女性性 Die Weiblichkeit」『続精神分析入門講義』第33講、1933年)がある。 |
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先に見たようにフロイトにおいて同一化によって自我に取り入れられた養育者が超自我である。とすれば、エディプス的超自我[Ödipales Über-Ich]以外に前エディプス的超自我[Präödipales Über-Ich]をフロイトは語っていることになる。
以上、次のようになる。 |