2024年3月19日火曜日

忘れられた原抑圧あるいは原抑圧の時代


 さて抑圧をめぐって10回ーーいや11回続けたのでこのへんにしとくよ、


抑圧文献簡易版ーー原抑圧[Urverdrängung]と固着[Fixerung]と異者としての身体 [Fremdkörper]

抑圧文献①ーー抑圧された幼児期の出来事[verdrängten Kindererlebnisse]

抑圧文献②ーー抑圧されたマゾヒズム[verdrängte Masochismus]

抑圧文献③ーー翻訳の失敗[Versagung der Übersetzung]

抑圧文献④ーー欲動代理[Triebrepräsentanz]

抑圧文献⑤ーー境界表象 [Grenzvorstellung]

抑圧文献⑥ーー排除[Verwerfung]

抑圧文献⑦ーー解離[Dissoziation]

抑圧文献⑧ーー原抑圧された対象a

抑圧文献⑨ーー欲動の表象代理 [Vorstellungsrepräsentanz des Triebes]と異者としての身体 [Fremdkörper]

抑圧文献⑩ーー究極の原抑圧



 ま、完璧ではけっしてないがね、逆にダブっているところも多いし。前期高齢者の年齢に入って2年たつんだが、最近は忘れることが多くてね、ひと月前書いたことだって忘れているよ。だからこうやって当面まとめておくほうがいいかな、と思い立ってね。この抑圧文献は主に抑圧の第一段階としての原抑圧をめぐっており、後期抑圧に触れているのは僅かだ。もし補足するなら後期抑圧なんだが、当面、以前掲げたことがある次の表だけにしておく。



原抑圧

Urverdrängung

抑圧された欲動[verdrängte Trieb](フロイト『快原理の彼岸』第5章、1920年)

抑圧された固着[verdrängten Fixierungen] (フロイト『精神分析入門』第23講、1917年)

抑圧されたトラウマ[verdrängte Trauma](フロイト『精神分析技法に対するさらなる忠告』1913年)

後期抑圧

Nachverdrängung

抑圧された願望(欲望)[verdrängte Wünsche](フロイト『夢解釈』第5章、1900年)

抑圧された表象[verdrängten Vorstellungen](フロイト『夢解釈』第7章、1900年)

抑圧された思想[verdrängten Gedanken ] (フロイト『夢解釈』第7章、1900年)



ここでは現代ラカン派の次の二文を掲げつついったん締めにする。



フロイト以降、原抑圧概念は全く忘れられるつつある。証拠として、Grinsteinを見るだけで十分である。Grinstein、ーすなわちインターネット出現以前の主要精神分析参考文献一覧である。96,000項目の内にわずか4項目しか、「原抑圧」への参照がない…この驚くべき過少さを説明するのは、とても簡単である。原抑圧概念は、ポストフロイト時代の理論にはまったく合致しないのである。彼らが参照しているのは、1910年前後以前のフロイトに過ぎない。(ポール・バーハウ Paul Verhaeghe, DOES THE WOMAN EXIST?、 1999)


後期ラカンにとって、症状は「身体の出来事」として定義される〔・・・〕。症状は現実界に直面する。シニフィアンと欲望に汚染されていないリアルな症状である。…症状を読むことは、症状を原形式に還元することである。この原形式は、身体とシニフィアンとのあいだの物質的遭遇にある〔・・・〕。これはまさに主体の起源であり、書かれることを止めない。--《現実界は書かれることを止めない。 le Réel ne cesse pas de s'écrire)(ラカン, S 25, 10 Janvier 1978)ーー。我々は「フロイトの原抑圧の時代[the era of the ‘Ur' – Freud's Urverdrängung])にいるのである。ジャック=アラン・ミレール はこの「原初の身体の出来事」とフロイトの「固着」を結びつけている。フロイトにとって固着は抑圧の根である。固着はトラウマの審級にある。それはトラウマの刻印ーー心的装置における過剰なエネルギーの瞬間の刻印--であり、欲動要求の回帰が生じる。

Lacan's late teaching, where the symptom is defined as a body event…; the symptom has a face of the real, beyond the defiles of the signifier and of desire, …to read a symptom is to reduce it to its primal formula, to the material encounter between the body and a signifier …This is the very origin of the subject, which does not cease repeating itself. This brings us to the era of the ‘Ur’ – Freud’s Urverdrängung. … Miller makes between this primal body event and what Freud calls fixation. For Freud, fixation is at the root of repression. It is a registration of a trauma – a moment of too much energy in the psychic apparatus - to which there is an exigency of the drive to return.(Anne Lysy, Report on the Preparatory Seminar Towards the 10th NLS Congress "Reading a Symptom", 2012