前回の超自我文献⑤で、超自我をめぐる備忘はいったんお終いにしようと思ったが、もう一つ重要事項を思い出したので、ここに付加的にメモする。
前回示したのは次の表現は等置できるということだった。
ここではこの三つにマゾヒズムへの固着[Fixierung an der Masochismus]が付加できることを示すが、いくらか廻り道して記述する。
リビドーは欲動エネルギーと完全に一致する[Libido mit Triebenergie überhaupt zusammenfallen zu lassen]フロイト『文化の中の居心地の悪さ』第6章、1930年) |
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フロイトにおいてリビドーの固着、つまり欲動の固着は事実上、マゾヒズム的固着である。 フロイトは1905年の『性理論』の時点で既に次のように記している。 |
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幼児期のリビドーの固着[infantilen Fixierung der Libido]( フロイト『性理論三篇』1905年) |
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幼児期に固着された欲動[der Kindheit fixierten Trieben]( フロイト『性理論三篇』1905年) |
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無意識的なリビドーの固着は性欲動のマゾヒズム的要素となる[die unbewußte Fixierung der Libido …vermittels der masochistischen Komponente des Sexualtriebes](フロイト『性理論三篇』第一篇Anatomische Überschreitungen , 1905年) |
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しかも後年のフロイトはリアルな欲動自体がマゾヒズムだとしている。 |
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欲動要求はリアルな何ものかである[Triebanspruch etwas Reales ist]〔・・・〕自我がひるむような満足を欲する欲動要求は、自己自身にむけられた破壊欲動としてマゾヒスム的であるだろう[Der Triebanspruch, vor dessen Befriedigung das Ich zurückschreckt, wäre dann der masochistische, der gegen die eigene Person gewendete Destruktionstrieb. ](フロイト『制止、症状、不安』第11章「補足B 」1926年) |
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さらに、超自我の設置も欲動のマゾヒズム的固着をもたらす。 |
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超自我が設置された時、攻撃欲動の相当量は自我の内部に固着され、そこで自己破壊的に作用する[Mit der Einsetzung des Überichs werden ansehnliche Beträge des Aggressionstriebes im Innern des Ichs fixiert und wirken dort selbstzerstörend]. (フロイト『精神分析概説』第2章、1939年) |
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マゾヒズムはその目標として自己破壊をもっている[Masochismus …für die Existenz einer Strebung, welche die Selbstzerstörung zum Ziel hat.] (フロイト『新精神分析入門』32講「不安と欲動生活 Angst und Triebleben」1933年) |
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これが、ラカンの次の二文の意味にほかならない。 |
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超自我はマゾヒズムの原因である[le surmoi est la cause du masochisme](Lacan, S10, l6 janvier 1963) |
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享楽は現実界にある。現実界の享楽は、マゾヒズムによって構成されている。…マゾヒズムは現実界によって与えられた享楽の主要形態である。フロイトはそれを発見したのである[la jouissance c'est du Réel. …Jouissance du réel comporte le masochisme, …Le masochisme qui est le majeur de la Jouissance que donne le Réel, il l'a découvert,] (Lacan, S23, 10 Février 1976) |
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すなわち超自我はマゾヒズムの原因とは超自我は現実界の享楽の原因、つまりリアルな欲動の原因である。 ……………………
《フロイトは幼児期の享楽の固着の反復を発見したのである[Freud l'a découvert…une répétition de la fixation infantile de jouissance]》. (J.-A. MILLER, LES US DU LAPS -22/03/2000)とは、幼児期の母なる超自我へのマゾヒズム的欲動の固着の反復強迫を発見したということである。 |