フロイトの境界表象[Grenzvorstellung]、境界概念[Grenzbegriff]、ラカンの境界構造[structure de bord]は同一のことを言っている。 |
抑圧は、過度に強い対立表象の構築によってではなく、境界表象 [Grenzvorstellung ]の強化によって起こる[Die Verdrängung geschieht nicht durch Bildung einer überstarken Gegenvorstellung, sondern durch Verstärkung einer Grenzvorstellung ](Freud Brief Fließ, 1. Januar 1896) |
欲動は、心的なものと身体的なものとの境界概念である[der »Trieb« als ein Grenzbegriff zwischen Seelischem und Somatischem](フロイト『欲動および欲動の運命』1915年) |
享楽に固有の空胞、穴の配置は、欲動における境界構造と私が呼ぶものにある[configuration de vacuole, de trou propre à la jouissance…à ce que j'appelle dans la pulsion une structure de bord. ](Lacan, S16, 12 Mars 1969) |
抑圧の境界表象と欲動の境界概念が同一なのは一見奇妙かもしれないが、欲動は不快であり、常に抑圧されている。 |
不快なものとしての内的欲動刺激[innere Triebreize als unlustvoll](フロイト『欲動とその運命』1915年) |
抑圧の動因と目的は不快の回避以外の何ものでもない[daß Motiv und Absicht der Verdrängung nichts anderes als die Vermeidung von Unlust war. ](フロイト『抑圧』1915年) |
抑圧された欲動[verdrängte Trieb](フロイト『快原理の彼岸』第5章、1920年) |
ラカンの享楽とはこの抑圧された不快な欲動にほかならない。 |
不快は享楽以外の何ものでもない [déplaisir qui ne veut rien dire que la jouissance. ](Lacan, S17, 11 Février 1970) |
なお不快の別名は不安・トラウマである。 |
不安は特殊な不快状態である[Die Angst ist also ein besonderer Unlustzustand](フロイト『制止、症状、不安』第8章、1926年) |
不安はトラウマにおける寄る辺なさへの原初の反応である[Die Angst ist die ursprüngliche Reaktion auf die Hilflosigkeit im Trauma](フロイト『制止、症状、不安』第11章B、1926年) |
フロイトの欲動がトラウマであるのは、「異者としての身体」概念ーー「異物」とも訳されてきたーーを介入するとわかりやすい。 |
エスの欲動蠢動は、自我組織の外部に存在し、自我の治外法権である。われわれはこのエスの欲動蠢動を、たえず刺激や反応現象を起こしている異者としての身体 [Fremdkörper]の症状と呼んでいる[Triebregung des Es … ist Existenz außerhalb der Ichorganisation …der Exterritorialität, …betrachtet das Symptom als einen Fremdkörper, der unaufhörlich Reiz- und Reaktionserscheinungen] (フロイト『制止、症状、不安』第3章、1926年、摘要) |
トラウマないしはトラウマの記憶は、異者としての身体 [Fremdkörper] のように作用する[das psychische Trauma, respektive die Erinnerung an dasselbe, nach Art eines Fremdkörpers wirkt](フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年) |
つまりエスの欲動はトラウマであり、これが先のラカンの《享楽に固有の空胞、穴の配置は、欲動における境界構造と私が呼ぶものにある[configuration de vacuole, de trou propre à la jouissance…à ce que j'appelle dans la pulsion une structure de bord. ]》(Lacan, S16, 12 Mars 1969)の穴の意味である。 |
現実界はトラウマの穴をなす[le Réel …fait « troumatisme ».](Lacan, S21, 19 Février 1974) |
享楽は穴として示される他ない[la jouissance ne s'indiquant là que …comme trou ](Lacan, Radiophonie, AE434, 1970) |
欲動の現実界がある。私はそれを穴の機能に還元する[il y a un réel pulsionnel … je réduis à la fonction du trou](Lacan, Réponse à une question de Marcel Ritter、Strasbourg le 26 janvier 1975) |
以上より、享楽=欲動=トラウマの穴となり、これが境界表象=境界概念=境界構造である。 |
境界表象は自我とエスの境界を示しており、ラカンマテームS(Ⱥ)ーー穴のシニフィアンーーに相当する。 |
境界表象 S(Ⱥ)[boundary signifier [Grenzvorstellung ]: S(Ⱥ)](PAUL VERHAEGHE, DOES THE WOMAN EXIST?, 1997) |
S (Ⱥ)というこのシンボルは、ラカンがフロイトの欲動を書き換えたものである[S de grand A barré [ S(Ⱥ)]ーーce symbole où Lacan transcrit la pulsion freudienne ](J.-A, Miller, LE LIEU ET LE LIEN, 6 juin 2001) |
大他者のなかの穴のシニフィアンをS (Ⱥ) と記す[(le) signifiant de ce trou dans l'Autre, qui s'écrit S (Ⱥ) ](J.-A. MILLER, - Illuminations profanes - 15/03/2006) |